スタッフコラム

ルーマニア Via Transilvanica トレイル視察レポート

2024/10/30 みちのくトレイルクラブ
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Via Transilvanica(ヴィア・トランシルヴァニカ)は、ルーマニアのトランシルヴァニア地方を縦断する約1,400キロメートルのロングトレイルです。この道は、ルーマニアの豊かな文化、自然、歴史を体験できる素晴らしいルートとして知られ、世界中のハイカーが訪れています。ルートは10の県を通り、美しい山々や森、そして伝統的な村々をつなぎます。途中、ハイカーは多くの文化遺産を巡り、多民族国家であるルーマニアの多様な地域文化に触れながら、地元の人々と交流を重ねていきます。
今回、事務局長の相澤と事務局次長の板橋は、環境省が進める「令和6年度みちのく潮風トレイルインタープリテーション計画等作成業務」の一環として、海外のロングトレイル先進地の情報を収集する目的で9月にVia Transilvanicaを10日間訪問しました。
きっかけとなったのは、今春(2024年3月~5月)みちのく潮風トレイルをスルーハイクしたルーマニア人、アリン・ウセリウさんの存在です。彼はVia Transilvanicaの事務局長で、みちのく潮風トレイル全線をひとり歩く中で、東北の人たちの温かいもてなしや美しい海の景観、そして震災から復興に向かう地域の姿に心を打たれ、「Via Transilvanicaと相通じるものを感じた」と言います。

ルーマニアは第二次世界大戦後に王政が廃止され共産主義政権が台頭、チャウシェスク政権のもとで独裁体制が確立されました。この時期、経済計画や抑圧的な政策が実施され、生活物資が不足し、国民の生活は困窮したといいます。1989年の革命後、民主化が進みましたが、2007年にEUに加盟してからは多くの若年層や高いスキルを持つ労働者が他国へ流出し、地方部では特に労働力不足や貧困が深刻な問題となっているそうです。

アリンさんが代表を務めるルーマニアの非営利団体Tasuleasa Social(タシュレアーサ・ソーシャル)は設立から24年間にわたり植樹活動や自然保護、若者向けのボランティア活動、子どもたちへの支援などを通して持続可能な地域計画を推進してきました。ここ数年はVia Transilvanicaの開発プロジェクトが世界中から注目され、「ヨーロピアン・ヘリテージ・アワード」をはじめとする数々の賞を受賞しています。国内外からのハイカーがトランシルヴァニア地方を訪れることで、地域社会や経済、文化にさまざまなポジティブな効果をもたらし、地域の活性化につながっているそうです。実際に私たちも滞在中いくつかのゲストハウスに宿泊した際は、各地方に伝わる建築様式の家に招き入れられ伝統料理で温かくもてなしていただいたり、トレイルができたことをきっけかけに国外から帰郷しハイカーのための宿を運営する若者や地域で活躍するガイドと意見交換をする機会を得ました。
計画当初は保守的な人々からトレイルに対して否定的な意見が出ることもあり、アリンさんやスタッフはそのような地域に足繁く通い、ロングトレイルの重要性や効果について丁寧に説明をして理解を得たそうです。初めての区間開通から6年が経過した今、地元の人々は観光や経済の活性化を大きく実感している様子に見えました。また、多くのハイカーと交流することで自然や伝統文化などの地域資源が再評価され、地元の人々にとっては、自分たちの地域の魅力を改めて認識するきっかけになったそうです。

前置きが長くなりましたが、ここからは私たちが滞在中に出会った印象的な風景や人についていくつか写真で説明していきたいと思います。

Via Transilvanicaの事務局長アリン・ウセリウ氏とみちのくトレイルクラブの相澤事務局長。
20代~30代のスタッフが忙しいながらも活き活きと仕事をしていたのが印象的でした。何人かにインタビューを申込み、働き始めたきっかけや担当している業務内容など色々と話を聞かせてもらいました。
Via Transilvanicaには石の標柱が約1㎞ごとに設置されており、その一本一本には異なるデザインの彫刻があしらわれています。スルーハイカーであれば1400本ものアートを鑑賞することができるのです。想像するだけでワクワクします!来年さらに200㎞の支線が追加されるということで、国内から十数人の彫刻家が集まり作品作りに励んでいるところでした。彼ら自身もボランティアで、「自分の作品がVia Transilvanicaのルートに設置されるのは光栄」と無償で作業をしています。そして驚いたことには、私たちが訪ねた記念として食堂で会話をした方がトレイルマークを標柱に彫って下さいました。素晴らしいホスピタリティに感激しました。
ルート上には石柱以外の標識や、ロゴマークを道のあちこちに見つけることができました。
特にロゴマークのつけ方は自由度が高いです!
Via Transilvanicaは12のユネスコ世界遺産を通ります。私たちは北半分のルートを4日間車で回り、15~16世紀にオスマントルコ帝国の侵略から人々を守るために建造された要塞教会や、人々に教義をわかりやすく伝えるため内部にも外壁にも聖書の内容を緻密に描いた修道院などを訪れ、ルーマニアの宗教文化や建築の美しさに触れました。トレイルの北の起終点となるプトナ修道院の扉にはVia Transilvanicaのロゴマークが。みちのくで言えば蕪嶋神社でしょうか。
ゲストハウスを営む方々にも会ってお話を聞きました。明るくて優しい方々ばかりでした
これは朝食の風景ですが、なぜ食卓に納豆があるかと言うと、アリンさんがみちのく潮風トレイルを歩いていた時、毎日のように旅館の朝ごはんに納豆が出て、歩き終わる頃にはすっかり納豆ファンになったそうです。ルーマニアに帰国してからも冷凍の納豆を日本から大量に取り寄せて、毎朝食べることを日課にしているのだそうです
牛、羊、山羊、犬などが車と同じ道路を歩いていました。結構なカルチャーショックを受けました(笑)

私たちが実際にトレイルを歩いた距離は本当に短かったですが、歴史・文化、自然景観、人々との交流など、アリンさんが2つのトレイルに共通点を見つけた気持ちがほんの少しだけわかるような気がしました。ただ、旅の後半になってくると私も相澤もトレイルを歩きながら(あの丘を登りきったら、青い海が見えるかな?)と、見えるわけがない海に思いを馳せるようになってしまいました。みちのく潮風トレイルを愛する私たちに「海」はなくてはならない存在なのだと改めて気づくことになりました。

Via Transilvanicaは、自然を愛し、冒険を求める人々にとって素晴らしい体験を提供するロングトレイルです。訪れる機会がありましたら、ぜひ地域の人と交流し、文化や自然をじっくり楽しんでみてください。

(記事担当:板橋)

著者 : みちのくトレイルクラブ

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