みちのくトレイルクラブの板谷です。
「みちのく潮風トレイルは冬でも歩くことが出来ますか?」というご質問をいただくことがあります。 東北の冬のトレイルというと、とてつもなく寒いのではないか、雪が深くて歩けないのではないか、雪山装備も必要なのかな、等の心配事もあるかと思いますが、みちのく潮風トレイル(MCT)が通っている太平洋沿岸ではそこまでの厳しい状況ではないことが多く、注意が必要なことはありますが概ね歩くことが出来ると考えています。
僕自身も2019年11月末から2020年1月にかけての冬季にスルーハイクでMCTを歩きました。当初は秋のスルーハイクを予定しながらも、大きな被害を残した台風が秋に襲来してしまったためにやむを得ず出発をずらした、という経緯ではありましたが、キリッと空気が冷えた冬のハイキングもとても素敵な旅でした。
その時の経験を踏まえながら、冬のMCTの良いところ(個人的な感想です)、気を付けたいところ、冬の気温など、また、ウェアや装備について、つれづれ書いてみたいと思います。
皆さまが計画を立てる時のヒントになれば幸いです。
ただし、その年、その時々によって気象状況が変わりますので、その点は十分お気をつけください。
おすすめしたいポイント
◯広葉樹の葉が落ちて、見晴らしが良くなる。
◯空気が澄んでいるので見晴らしが良くなる。
◯暑さによるバテがない。気温が低い方がむしろ歩きやすい。
◯夜、星がきれいに見える。
◯蚊、蜘蛛、蜂、蛭などの虫があまり活動しない。
△ツキノワグマ、三陸のクマは冬眠しないと地元の方には言われていますので、油断禁物です。
気を付けたいポイント
▶気温が低いので、雨に濡れた時などは低体温症に注意。
▶寒いからと言って厚着したまま歩くと、むしろ暑くなってバテたり汗冷えすることがある。
▶路面の凍結に注意する。そのためにも気温をチェックする。
▶トレイル上の山は低山ながらも、階上岳、霞露ヶ岳、鯨山、田束山、石投山などの山頂は積雪の場合もあるので注意が必要。
▶北部や自然歩道のセクションを歩く時は路面凍結、積雪の可能性もあるので、念のために簡単なチェーンスパイクなど滑り止めを持参すると良い。
▶日没時間が早いことを考慮に入れてスケジュールを考える。
▶日没後に行動する可能性を考えて、ヘッドライト、リフレクターなどを携帯する。
▶キャンプ場は冬季閉鎖になっていることが多いので確認が必要。
(名取トレイルセンター野営場は年末年始、休館日の火曜日以外は営業)
▶公共のトイレ、水道の使用が出来ないことが多いので要注意。
▶田代島、網地島に渡る網地島ラインは運航ダイヤが変わることがあるので確認が必要。
▶浦戸諸島の桂島、野々島間の無料渡船は、11月〜3月の日祝日は運休。
▶浦戸諸島の寒風沢島、東松島市宮戸間のMCT専用航路は、11月〜3月は運休。
▶気温が低い時は携帯電話バッテリーの減りが早い為、モバイルバッテリーを携行する。
概ね歩けますし、むしろ意外に歩きやすい季節ではありますが、冬ならではの気を付けるべきポイントはありますので、それらを踏まえて安全に楽しんでいただきたいと思います。
気温について
実際にどれくらいの気温なのか、昨冬2022年12月―2023年2月の平均最高気温、最低気温を例に、各所で比べてみました。
12月 | 1月 | 2月 | ||
八戸市 | 平均最高気温 | 4.9℃ | 2.4℃ | 3.4℃ |
平均最低気温 | -1.7℃ | -3.9℃ | -3.4℃ | |
宮古市 | 平均最高気温 | 7.3℃ | 5.0℃ | 6.0℃ |
平均最低気温 | -1.7℃ | -3.7℃ | -3.7℃ | |
大船渡市 | 平均最高気温 | 6.8℃ | 6.5℃ | 6.4℃ |
平均最低気温 | -0.6℃ | -2.7℃ | -2.4℃ | |
石巻市 | 平均最高気温 | 7.0℃ | 4.9℃ | 6.5℃ |
平均最低気温 | -0.6℃ | -2.7℃ | -2.4℃ | |
名取市 | 平均最高気温 | 8.3℃ | 6.5℃ | 7.7℃ |
平均最低気温 | -0.6℃ | -2.7℃ | -2.4℃ | |
東京 | 平均最高気温 | 12.2℃ | 10.2℃ | 12.1℃ |
平均最低気温 | 3.7℃ | 1.8℃ | 3.0℃ | |
大阪 | 平均最高気温 | 11.6℃ | 10.3℃ | 11.0℃ |
平均最低気温 | 4.6℃ | 3.1℃ | 3.7℃ | |
盛岡 | 平均最高気温 | 3.6℃ | 2.1℃ | 3.7℃ |
平均最低気温 | -2.8℃ | -4.6℃ | -4.8℃ |
気象庁のHPより過去データが見られますので興味がある方はご覧になってください。
「気象庁HP」
あくまでも平均値です。また必ずしも計測地点がMCTが通っている沿岸部の数値とは限りませんので、参考値として捉えてください。こうして見ると、東京や大阪とはかなり気温が違います。それでも内陸部の盛岡よりは少し暖かいようです。
冬季だけではなく3月、4月もお出かけ前には、エリア別の天気予報で最低気温を確認の上、服装、装備(寝袋など)の計画を立ててください。
余談ですが、ハイキングに出かける時には小さくても良いので温度計を持ち歩くと良いと言われています。ハイキング中や寝る時などに温度を記録し、この温度だとこの装備、というように次回以降の参考に出来るからです。ぜひ実行してみてください。
注意事項に書いていることの繰り返しになりますが、東北太平洋沿岸の降雪、積雪は少ないながらも、山の上などには積雪の可能性があります。また、道路が凍結していることもありますので、山のセクションを歩く時、北部を歩く時には簡易的なチェーンスパイクなどを保険として持ち歩くことをおすすめします。
3月でも降雪、積雪がみられることはあります。特に北部の自然歩道部分を歩く時には注意が必要ですので、天気予報をチェックして行動予定を考えてください。
ウェアについて
〈2019年冬のウェアリスト〉
カテゴリー | メーカー | 商品名 | 重量(g) |
WEAR | 2941 | ||
アウター(防寒) | Patagonia | ナノパフジャケット | 300 |
アウター(ソフトシェル) | Teton Bros. | ロングトレイルフーディ | 391 |
ミドルレイヤー | Patagonia | フリースベスト | 267 |
ミドルレイヤー | 山と道 | メリノフーディ | 262 |
インナー | icebreaker | ロングスリーブTシャツ | 136 |
パンツ | 山と道 | メリノ5ポケットパンツ | 377 |
タイツ | CW-X | サポートタイツ | 226 |
インナー | The North Face | ボクサーショーツ | 51 |
ハラマキ | AXESQUIN | ハラマキ | 80 |
ネックゲイター | Buff | ネックゲイター | 37 |
キャップ | Highhand2000 | ウールウォッチキャップ | 94 |
ソックス | Injinji | ミッドウェイトクルーウール | 86 |
グローブ | Outdoor Reserch | フリースグローブ | 40 |
腕時計 | CASIO | F-91W-1JH(チープカシオ) | 21 |
バンダナ | バンダナ | 39 | |
シューズ | Altra | Lone Peak 3.5 | 534 |
・手袋はフリース手袋では指先が冷たく、途中トレイル上のワークマンでシンサレート中綿入の物を買い足しました。
スタート時には過剰な寒さ対策でいろいろとウェアが渋滞気味でしたが、歩いていく中で落ち着いたのが上記のようなラインアップです。
ただし、当たり前ですがその時々で気温、気象状況は変わりますので、一つの例として参考にしてください。
軽量化を考えればアウターはレインアウターを兼用すれば良かったのですが、ティートンブロスのロングトレイルフーディをこのハイキングの為に購入してどうしても着たかったので投入しました。MCTスルーハイクで何を着るか、ウェア選びも楽しみの一つでした。
〈重ね着のススメ〉
朝の歩き始めは寒いので防寒着としてナノパフジャケットを着ていましたが、歩いて身体が温まってからは一番上に着ていたのはソフトシェルでした。寒さ対策で厚着しすぎて逆に行動中に大汗をかくと体力を消耗しますし、汗冷えもします。着脱して温度調節しやすいウェア計画をおすすめします。
〈ウェアのインナー選びに注意〉
発熱により暑くなりすぎる、乾きにくく汗冷えしやすいなどの理由から、発熱する素材、ヒート◯◯◯などを行動中のアンダーウェアとして着用するのはおすすめしません。
一番のおすすめはメリノウールです。素材自体が保温性に優れている、速乾性はないがその分熱を奪いにくく濡れても保温力がある、臭いにくい、というメリットがたくさんあります。僕は夏でもメリノウールのTシャツを着用しています。
乾きにくい綿素材、乾く時に熱を奪う可能性があるポリエステル素材は、冬のインナーとして着ることは個人的な好みとしてあまりありません。
装備について
〈2019年冬のギアリスト〉
カテゴリー | メーカー | 商品名 | 重量(g) |
PACK | 835 | ||
バックパック | ULA | CDT | 650 |
バックライナー | Sea to Summit | ウルトラシルパックライナーS(50l) | 73 |
サコッシュ | 山と道 | Yamatomichi Sacohe | 46 |
スタッフサック | 山と道 | スタッフパックXL | 66 |
SHELTER&SLEEPING | 1635 | ||
ツェルト | finetrack | ツェルト2ロング(ロープ込) | 400 |
ペグ | アライテント | スティックペグ×8 | 80 |
インナーシート | SOL | エマージェンシーブランケット | 78 |
スリーピングバッグ | Hiker’s Depot | ウィンターダウンバッグ | 885 |
スリーピングパッド | FREELIGHT | クローズドセルマット | 132 |
座布団 | THERMAREST | Zシートソル | 60 |
COOKING | 684 | ||
ストーブ | Primus | 116フェムトストーブⅡ | 64 |
ガスカートリッジ | Primus | ハイパワーガス250T | 380 |
クッカー | If you have | Pound Cup | 80 |
カトラリー | snowpeak | スクー | 14 |
カップ | WILD | フォールディングカップ | 24 |
ライター | Bic | Mini Bic | 10 |
ウォーターキャリー | Platypus | プラティ2Lボトル | 36 |
ウォーターキャリー | Platypus | ソフトボトル 1L | 35 |
浄水器 | Sawyer | ミニSP128 | 41 |
WEAR(着替え等) | 1220 | ||
レインアウター | Patagonia | M-10 | 233 |
レインパンツ | finetrack | エバーブレスフォトンパンツ | 220 |
アウター | Teton Bros. | ウィンドリバーフーディ | 95 |
インナー | Brown by2Tacks | BAA3(ウールロンT) | 255 |
インナー | Smartwool | ウールタイツ | 121 |
ソックス | Smartwool | ウールソックス | 95 |
ダウンパンツ | The North Face | ライトヒートパンツ (テント、宿で着用) | 201 |
OTHERS | 2091 | ||
日傘 | EuroSHIRM | Swing Liteflex Umbrella | 218 |
トレッキングポール | SINANO | トレランポール | 388 |
ヘッドランプ | PETZL | TIKA | 86 |
ライト | CARRY THE SUN | スモールウォームライト | 63 |
予備バッテリー | 単3電池×3 | 36 | |
携帯電話 | Apple | iPhpne8 | 148 |
コンセント付きモバイルバッテリー | ANKER | PowerCore Fusion5000 | 189 |
モバイルバッテリー | ANKER | PowerCore Ⅲ5000 | 110 |
コード | ライトニングケーブル | 27 | |
ファーストエイドキット | 自分で組み合わせたもの | 65 | |
歯ブラシ | Soladey | ソラデー歯ブラシ | 22 |
ナイフ | Victorinox | クラシックSD | 21 |
シャベル | MIZO | Mog(トイレセット込) | 44 |
手ぬぐい | PAPERSKY | 静岡手ぬぐい | 36 |
トイレットペーパー | ティッシュ×2 | 40 | |
ゴミ用バッグ | mont-bell | ガベッジバッグ | 58 |
温度計 | Sun&Hiker’s Depot | Therm-O-compass | 9 |
コンパス | SILVA | No.7 | 22 |
地図 | 環境省 | 公式マップ(5枚分) | 200 |
軽アイゼン | GRIVEL | スパイダー | 183 |
サングラス | FLOAT | MAIA MAT.BLACK/Lt.GY FMR | 27 |
シニアグラス | JINS | シニアグラス | 21 |
ボールペン | BIC | 4色ボールペン | 11 |
熊鈴 | EX’PERT OF JAPAN | ミニベル | 9 |
ホイッスル | ホイッスル | 6 | |
スタッフサック | GRANITE GEAR | Air Bag(11L)×2 | 52 |
合計6,465g
〈ガスカートリッジ問題〉
冬のハイキングに限ったことではありませんが、スルーハイクをする上で気になることの一つとして燃料の補給問題があると思います。
現在(2024年2月1日)は名取トレイルセンター内のギアショップ「TRAIL GATE」で各種ガスカートリッジ(OD缶)を取り扱っています。(燃料用アルコールもあります)仙台空港からMCTに入るハイカーはぜひお立ち寄りください。
また、トレイル上の街のホームセンター、アウトドアショップを探して購入することも出来るでしょう。
※MCTサポーターズに登録してくださっている、八戸市の柳沢商店さん、宮古市の滋賀スポーツさん、EFRICAさん、釜石市のMESAさんではOD缶の取り扱いがあります。
僕自身は、MCTハイキング前にコンビニでも購入できるCB缶対応のガスストーブを検討したこともありましたが、全体が重くなること、一本だけの購入可否がわからなかったことから、結局不採用にしてOD缶のガスストーブを携帯しました。
〈寝袋〉
僕が歩いた2019年冬は暖冬だったこともあり、寒いながらもテント泊中心にスルーハイクが出来ました。とは言えやはり北国です。
3シーズン用のシュラフでスタートして、寝る時にダウンジャケット、ダウンパンツ、ダウンソックスなどを着用して寝ていましたがそれでも寒く、夜が来るのがやや憂鬱になってしまいました。このままではメンタル的にスルーハイクの継続が難しくなる!との判断から、背に腹は替えられない、と大枚をはたいて冬用のシュラフを購入、投入しました。
お店の方からはオーバースペックでは?と言われながらも、それ以降はTシャツとタイツだけでもヌクヌクと暖かく眠ることが出来て、快適に夜を過ごせてとても幸せでした。
「ウィンターダウンバッグ」
春、秋にスルーハイクを計画しているハイカーの皆さんも寒さについての油断は禁物です。出来れば適応最低温度0℃よりもう1ランク上の寝袋が望ましいと思われます。
もしくはブースト出来るアイテム、インナーシーツ、シュラフカバー、ヴィヴィなどの検討をおすすめしたいところです。
MCTは少なくとも3日に一回は商店、街で日用品なら補給が可能ですし、ギア類でもオンラインショップで購入してどこかで受け取ることが可能です。最初から完成形にならずとも、歩いていく中で必要なもの、不必要なものを見極めていっても良いように思います。それも楽しみの一つではないでしょうか。そして、僕の装備はかりかりのUL志向ハイカーから見れば余分なアイテムがあることでしょう。
結局は好みの問題です。必携なアイテム以外は、正解、不正解はないと思っています。
「HIKE YOUR OWN HIKE」はギア選びから既に始まっています。
ギアについては、2023年10月に発刊された「TRAILHEAD ロングトレイルvol.2」で名取トレイルセンタースタッフ4人のスルーハイク装備を取り上げていただいているので、興味がある方はご覧になってください。
※こちらの書籍は名取トレイルセンター図書コーナーに配架しています。また、TRAIL GATEでも販売しています。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
以上、冬のハイキングについて、皆さまが安全にMCTハイキングを楽しむヒントになれば幸いです。
ご不明な点などあれば、お気軽に名取トレイルセンターまでご連絡ください。
それでは、HAPPY TRAILS!!