MCTハイカーズボイス

みちのく潮風トレイルハイカーズボイスNo.7

2024/07/30 みちのくトレイルクラブ
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今回ご登場いただくのは、応援会員の吉田彰さんです。岩手県陸前高田市にお住いの吉田さんは、普段は「東日本大震災津波伝承館 いわてTSUNAMIメモリアル」にて、多くの来館者を迎えてくださっています。7月10日に全線を歩き終わった吉田さんにお願いし、歩き始めたきっかけやみちのく潮風トレイルに対する想いなどを綴っていただきました。

みちのく潮風トレイルを歩こうと思ったきっかけ

【全ての始まりは『出会い』から】

「みちのく潮風トレイル憲章」との出会い。

私自身、被災地出身ながら東日本大震災当時は現地におりませんでした。直接震災を経験してない私にとって、みちのく潮風トレイル憲章の「震災をいつまでも語り継ぐための記憶の道とします」という言葉が心に突き刺さりました。実際に自らの足で訪れ体験して得る知見は大きなものになるだろうと考えるようになりました。

そして、初めてみちのく潮風トレイルを直接歩いたのはおよそ3年前。陸前高田市観光物産協会が主催するトレイルイベント。大雨から雹に代わりずぶ濡れになる最悪な天候ながらも魅力を体感し徐々に引き込まれて行きました。

さらに、そのイベントを担当していた多勢太一君と出会い意気投合!後にトレイルでの相棒となり、一緒に互いの休みの日に季節や状況に合わせ、順番や北行き南行きこだわらず、その時々で行きたい所に行くというセクションハイクの形でスタートしました。今回お互いの都合上、私が先にゴールをしましたが、彼が後々ゴールしてくれる事を期待しています。彼との運命的な出会いが無ければ全線踏破への一歩を踏みだすことは無かったと思います。

【のんびり全線踏破計画】

ちなみに私はのんびり歩くタイプで休憩も多め、1日せいぜい20kmぐらい。しかし人によっては1日に30~40kmも進む。こんなに遅いペースで大丈夫か?と当初不安にもなりましたが、でもその分長い時間たっぷりとみちのく潮風トレイルを味わうことが出来ました。大事なのは他人とは比較しないし焦らない。のんびりとマイペースで良いのです。

歩いていて心に残ったヒト・モノ・コト、出来事など

【何気ない風景も誰かの大切な場所】

歩いていると同じ様な風景ばかり続き見過ごすこともあります。しかし自分にとって平凡な風景でも、そこで過ごした人の数だけその場所にルーツやストーリーがあり、かけがえのない場所であることに改めて気付かされます。特に震災の被害によってそれが色濃く感じやすいみちのく潮風トレイルは、他の地域には無い特徴だと言えます。

【みちのく潮風トレイルってどんな道?】

みちのく潮風トレイルはただ約1000km歩くだけなのか?と思われがちですが、しかしそこでは四季を感じ自然や風景だけでなく歴史・文化・震災など様々な事に思いを馳せながら歩み、ゴミの不法投棄を目の当たりにして環境破壊に怒りをにじませつつ、震災によって進む過疎化などの社会問題を考える。もちろん平坦な道だけでなく山あり谷あり海も渡り川も渡る。1日を終えた後のお酒や食事の味や喜びなど、全ての感情が詰まっている道であることを私は学びました。

肉体的にも精神的にも厳しさを感じる事がほとんどですが、それをはるかに上回る貴重な経験を得ることが出来ます。それはメディアやネットでも知る事も出来ない、お金でも買えない特別なものです。

「四季を想像させ、五感を刺激し、喜怒哀楽で感情を揺さぶる道」。

これから歩こうとする人にどんな道なのかと聞かれたら、私はこの様に伝えて行きたいと思います。

歩き終わっての感想

【感謝】

全線を歩き終えてまず思った事は『感謝』。

相棒を始め、トレイルエンジェル、自然保護官やトレイルセンターの方々、民宿やゲストハウス、渡船、飲食店、潮目に集まる仲間達等々、トレイルをしてなかったら確実に出会うことはなかった人達がいます。自分一人では歩き始める事も終える事も出来ませんでした。たくさんの出会いと経験が今後の人生の財産になると思います。トレイルで生まれた「縁」をこれからも大切にして行きます。

ありがとうございました。

【全線踏破は終わりではなかった】

始めた当初は全線踏破した瞬間はマラソンのゴールシーンの様なものを思い描いていました。しかし、実際踏破してみたら「感謝」はあれど「達成感」はあまり沸いて来ない。うすうす感じていたものでしたが、恐らくゴールしても自身の心の中で「みちのく潮風トレイル」という存在自体が終わったわけでないからだと思います。

【ふくしま浜街道トレイルは必然】

踏破前日に松川浦で宿泊した丸三旅館のご主人が翌日、駒ヶ嶺駅まで車で送ってくれました。その車中にて震災当時から現在に至るまでの苦労、相次ぐ同業者の閉業、松川浦への思いなどを語り聞かせて頂き、私の心が揺さぶられました。ここまで来たなら絶対に福島も体験するべきだと思い「いつかまたここに来ます」と伝えご主人と別れました。

【皆で育てる道とは?】

全線踏破しただけでは体現出来なかったトレイル憲章があります。

それは、憲章の最後6番目の「歩く事を愛するすべての人々を歓迎し、皆で育てる道とします」でした。

これからは訪れる側から迎える側へ

最近、陸前高田市の大野海岸に中間地点を表すミッドポイントが設置されました。自宅から直ぐの場所であり何か運命を感じるものがありました。今度は私自身が歩く人達を温かく迎えつつ、何らかの形で支えて行ければと思います。

著者 : みちのくトレイルクラブ

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