トレイルメンテナンス

石巻市雄勝町_整備実施研修会レポート

2026/03/25 みちのくトレイルクラブ
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今回は、石巻市雄勝町で開催した「整備実地研修会」を詳しくレポートしていきます。
この「整備実地研修会」の目的は、ハイカーが安全に歩ける道を維持するために、自然への負荷を抑えた「環境配慮型」の整備手法を学び、実践できる担い手を育てることです。

概要

日時:2025年4月21日(月)、4月22日(火)
場所:石巻市雄勝町_船越半島
主催:認定NPO法人みちのくトレイルクラブ
対象:整備リーダーの方々
その他参加者:ハイカーや地域住民、石巻山の会、石巻市産業部観光政策課、環境省石巻管理官事務所の方々
内容:
 4月21日(月)午前:トレイル調査検討/ 午後:トレイルメンテナンス
 4月22日(火)トレイルメンテナンス

背景

今回、トレイルメンテナンスをしたのは、みちのく潮風トレイルの石巻市雄勝(おがつ)町エリア。
このエリアは、三陸復興国立公園のダイナミックな海岸美と、静かな漁村の風景が調和したセクションです。太平洋に突き出た船越半島では、波に削られた険しい断崖絶壁や奇岩が続く、三陸らしい景観を楽しめます。トレイル近くにある大須崎灯台の象徴的なスポットで、広大な太平洋を一望できるパノラマビューが魅力。また、特産の「雄勝石(天然スレート)」を使った美しい街並みや工芸品に触れることができ、震災からの力強い歩みを感じられます。

元々このエリアのトレイルは下図にあるように、灰色の路線でした。

図1: 旧ルートと新ルート


旧ルートの荒峠を通る県道238号線は、カーブが多く見通しが悪い上、車の交通量も多かったため、ハイカーにとってよい道とは言い難い状況にありました。

旧ルートの荒峠を通る県道238号線(Googleストリートビューより)

そこで、ハイカーの安全性を保ち、ハイキング体験の質向上させるため、トレイルの再設定が検討されることとなりました。ただ、この再設定の検討がなかなか困難でした。地図上にあった破線を辿ると、アスファルトやフェンスが崩れていたり、行く手を竹藪が立ちふさがります。

この道を新たに開通するのには、かなりの労力が必要だと感じていたところ、地元の方から「別の道があるよ」という情報を聞きます。そこは、旧船越中学校裏から続く自然歩道で、昔の子どもたちはその道を使って通学していたというのです。早速そちらの道を確認しに行くと、手を入れれば歩けそうだということが分かりました。また、昔中学校として使用されていた跡地を通るというのも、その土地の歴史を知れるという意味でもよいだろうということで、この路線に決まりました。

雄勝町立船越中学校記念碑(昭和22年4月開校 昭和57年3月閉校)
旧船越中学校跡地

最終的に決まった路線は、旧船越中学校裏から続く自然歩道に入り、そこから船越全体をぐるっと周回するかたちで荒浜海水浴場に抜けていきます(図1の赤い路線)。

トレイル調査検討

整備実地研修会初日はトレイルメンテナンスをする前に、皆で調査検討をしました。
以前使われていたとは言え、もう何年も使用された形跡はなく荒れており、倒木が無数にありました。

トレイル上にある倒木は、原則撤去することを提案したときに、「本当に全て撤去する必要があるか。跨げるものはそのままにしておく方が自然ではないか。」という意見が出ました。
これはとても重要な議論で、必ずしも正解と言える答えはありません。

トレイルメンテナンスの検討するときは、下記の3点の視点を軸に考えるようにしています。

  1. トレイルや周辺における生態系が保たれているか
  2. ハイカーが安全に歩ける状態が保たれているか
  3. ハイカーの原始的体験が保たれているか

1. トレイルや周辺における生態系が保たれているか

倒木を容易に跨げない場合、倒木を避けてトレイル外にはみ出して歩くことが考えられます。

2. ハイカーが安全に歩ける状態が保たれているか

跨ぐ場合は躓いて転倒する可能性があります。
また、倒木の下をくぐる場合には、上から木に押しつぶされることも最悪なケースとして考えられます。
また、倒木が頻繁に出てくるエリアでは、その分体力や時間を消耗してしまいます。

3. ハイカーの原始的体験が保たれているか

本来の自然がもつ景観や音の環境を阻害しないように努めながら、ハイカーが自然体験に集中できる環境を整えていく必要があります。実際、倒木を除去しなくても物理的に歩くことは可能ですが、短い区間で何度も倒木が出てくるとハイキング体験の質は低下していまいます。

この議論に正解というものはありません。
場合によっては倒木を一部残すということでもよいと思います。
(例えば、倒木を巣穴に子育てをしている動物がいたとして、ハイカーの安全性にも問題なさそうと判断された場合など)

いずれにしても、自然環境やハイカーの安全性を守りながら、どういうハイキング体験をしてほしいかということを考えながら決めていくほかありません。
今回は上記のような議論を経て、原則は倒木を除去することにしました。

トレイル上の課題とメンテナンス計画

トレイル上の課題をまとめると下記の通りです。

  1. トレイル上に大量の倒木がある
  2. トレイル上に落葉と土砂が堆積している
  3. トレイルの歩行面が整地されていない
  4. トレイルに溝(水路)ができている
  5. トレイルが不明瞭である
倒木_その1
倒木_その2
落葉と土砂が堆積しており、歩行面が整地されていないトレイル
トレイルに溝(水路)ができている
トレイルが不明瞭で、行き先に迷う

トレイルメンテナンスでは、3つの班に分かれて、1班から3班まで順に作業することにしました。

1班: 倒木処理チーム
2班: 枝切り・草刈りチーム
3班: 整地チーム

1班: 倒木処理チーム

新たに道を設置するときは歩行幅を約100cmほどに設定するのですが、今回はもともと設置された道を活用することとしました(実際の歩行幅は2~3mほどありますが、無理に狭めることはせずに、元の道幅を活用しました)。
まずは歩行幅にある倒木を除去していきます。

2班: 枝切り・草刈りチーム

続いて、歩行幅内の枝を切り、草を刈っていきます。
この図では高さを明記していませんが、高さは2mくらいを目安としています。
いずれにしても、大きなザックを持ち歩くハイカーの体に枝や草が触れないようにし、すれ違うことができる最小限の空間を確保します。
また、ハイカーは谷側に寄っていく傾向があるので、谷側の植生は大きく育つように保ち、ハイカーがトレイル内に留まるように設計します。

3班: 整地チーム

トレイル上に堆積している落枝や落葉、泥を除去します。
特に歩行面の両端にはこれらが堆積しやすいので、そこを重点的に除去します。
基本的に木の根は残しますが、歩行面に浮き出た通行の妨げになっている細い根はとり除きます。
必要に応じて、上り法面を45°以下に削り、歩行面は少し谷側に傾斜させます。これによってトレイル上に流れてきた水を速やかに排出でき、路体を水の削れから守ることができます。

あとはトレイル上にできた溝(水路)を埋めもどし、道が分かりにくいところは標識をつけるなどの対応をします。

メンテナンス作業とその後の経過

3つの班に分かれて、1班から3班まで順に作業しました。

1班: 倒木処理チーム
2班: 枝切り・草刈りチーム
3班: 整地チーム

1班: 倒木処理チーム
2班: 枝切り・草刈りチーム
2班: 枝枝切り・草刈りチーム
3班: 整地チーム

メンテナンス箇所1

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス前
2025年4月22日

メンテナンス箇所2

トレイルの中央に溝(水路)ができています。
今回のトレイルは元々幅が広いので、水路と歩行路を分離することにしました。
山側は山側斜面から流れてくる水の影響を受けやすいため、通常、歩行路をつけるのは水路の谷側が望ましいとされています。すでに谷側に歩行路ができ始めていたので、そちらをきれいに整地します。合わせて、水路を枝や落葉、岩などで埋め戻しました。

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所3

倒木処理をしました。また、谷側が崩れていたため、山側を少し拡幅しました。

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所4

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所5

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所6

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所7

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所8

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所9

倒木を処理して整地した後、道に迷わないように標識を掲示した。

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所10

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

メンテナンス箇所11

メンテンナンス前
2025年4月21日
メンテンナンス後
2025年4月22日

まとめ

今回の石巻市雄勝町での整備実地研修会を通じて、旧船越中学校の通学路という地域の歴史が刻まれた道が、ハイカーのための新しいトレイルとして息を吹き返しました。

「倒木をどこまで取り除くか」といった議論の一つひとつが、自然への負荷を最小限に抑えつつ、歩く喜びを最大化させる「環境配慮型整備」の真髄だと感じています。参加した整備リーダーや地域の方々とともに汗を流し、安全で心地よい道へと整えられたこのセクションは、これからの雄勝の新たな魅力となっていくはずです。

みちのくトレイルクラブでは、これからも地域の物語を次世代へつなぎ、ハイカーと自然が共生できる道づくりを続けてまいります。整備に関わってくださった皆さま、本当にありがとうございました。

新しくなった船越半島のトレイル、ぜひ皆さんの足でその変化を感じてみてください!

トレイルメンテナンス中に出てきた空き瓶。瓶の中で植物がわずかな水分と光で生きていた。
この研修は地球環境基金の助成事業の一環で開催した

記事担当:松川亮太

著者 : みちのくトレイルクラブ

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