みちのくトレイルクラブより

「登山道保全ワークショップ」の参加レポート

2023/08/28 みちのくトレイルクラブ
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7月に山梨県北杜市で開催された、北斗山守隊さん主催の「登山道保全ワークショップ」に参加してきましたので、そのときの様子についてレポートします。

今回、みちのくトレイルクラブからは事務局長の相澤と、トレイル運営事業部の森、松川の3名が参加しました。

参加した目的

私たちが普段何気なく歩いているトレイルには、多くの「登山道」が含まれていて、人々の継続的な協力のもと維持されています。一方で、度重なる豪雨や台風による被害、オーバーユースなどにより、登山道が崩壊し、通行止めなどの措置が取られている場所も少なくありません。

それはみちのく潮風トレイル上でも例外ではなく、実際に崩落やガリーの発生、倒木を迂回することによる周辺悪化やトレイルの複線化などが確認されています。ハイカーさんからも、実際に色々情報やご指摘をいただくこともあります。

2019年台風で被害を受けたみちのく潮風トレイル

このような状況に対して、みちのく潮風トレイルのトレイルとしての質を高め、常に歩ける、またはより歩きやすい状態を維持するため、みちのくトレイルクラブでは環境に配慮した持続的な保全活動に取り組み始めました。これまでも気になりながら、なかなか手をつけられなかった取り組みです。

しかし、保全活動を始めるにあたって、そもそもなぜ登山道が荒れるのか、どのように直せばよいのか、協力者をどのように募ればよいのかなど、情報が全く足りていませんでした。そんな折に、トレイルの専門家でいつもアドバイスをいただいている勝俣隆氏から、北杜山守隊が主催する「登山道保全ワークショップ」の存在を聞きました。保全活動のヒントを得るために、早速ワークショップに参加してみることにしました。

北杜山守隊とは

一般社団法人北杜山守隊は「みんなで守る、山の道。」をビジョンに掲げ、山梨県北杜市を拠点に南アルプスの自然環境保全活動に取り組んでいる団体です。
北杜山守隊:https://hokuto-yamamoritai.org/

北杜山守隊が主催する「登山道保全ワークショップ」

代表理事の花谷さんは、甲斐駒ヶ岳七丈小屋の運営をする中で、登山道が痛んでいく姿を目の当たりにしながら、なんとかしなければという思いを抱えていたそうです。そんなとき、2019年の台風19号によって登山道が甚大な被害を受け、それが保全活動に取り組むきっかけとなっていきます。 全国の登山道で共通する課題として、「担い手不足」と「財源不足」が挙げられます。北杜山守隊では環境保全とツーリズムをうまく組み合わせることにより、これらの課題を解消し持続可能な活動の仕組みを作ろうとしています。その仕組みの1つがまさに「登山道保全ワークショップ」です。

「登山道保全ワークショップ」の概要

  • ワークショップ名:北杜山守隊と学ぶ! 登山道保全ワークショップ(1泊2日コース)
  • 日時:2023年7月22日(土)~7月23日(日)
  • 場所:北杜市日向山登山道
  • 企画:一般社団法人 北杜山守隊
  • 旅行企画・実施:(株)ファーストアッセント
  • 内容:
    [1日目] 野外ワークショップ(観察)、屋内ワークショップ
    [2日目] イメージ共有、作業、振り返り

「登山道保全ワークショップ」の詳細

[1日目]

1日目は、まず野外のワークショップから始まりました。
実際にやることは、“観察”です。

土地をよく見て、何が起きているのか、なぜ起きたのかを考察しながら歩いていきます。 実はこのワークショップの2日前に北杜市は集中豪雨に見舞われたようで、日向山登山道の至るところで土砂流出が起きており、今まさに登山道が崩れたという状況を見ることができました。

集中豪雨で土砂流出が起こっている日向山登山道

登山道の侵食にはパターンがあることが分かりました。

  • 登山者の踏圧で植物が生えなくなり、裸地化する。
  • 登山道に水が集まり水路となる。水によって土砂が流される。
  • 土砂の流出によって歩きにくいところを避けるため、さらに侵食が広がる。

ポイントとなるのは「人」と「水」です。
まず「人」による侵食があり、その後に「水」による侵食が続く。さらに「人」による侵食が拡大するという悪循環です。

逆に言えば、はじめに「人」による侵食を食い止めることができれば、登山道の荒廃スピードを緩めることができます。 後半では裸地課が進み始めていた、元々は登山道ではないエリア(ショートカットのために人が歩いてしまっていた)に、参加者全員で倒木や落枝を置いて、人が歩かなくなるような環境を作り、植生が回復できるようにしました。

倒木などを置き、人が歩かないための環境作り

人は無意識に少しでも楽なコースをたどろうとするので、障害物を置き歩きにくい環境にすれば、必然的にそのエリアには入っていかないだろうという考えです。登山者の行動をコントロールするために、人間の心理についても考慮する必要があります。

午後の屋内ワークショップでは、北杜山守隊の事業紹介や国内外の国立公園の管理体制、台湾の千里歩道協会の取り組みなどについて話を伺い、意見交換などを行いました。

花谷氏と勝俣氏による屋内ワークショップの様子

[2日目]

2日目、元々予定していた修繕箇所ではなく、前日確認した、大雨でガリー化が一気に進んでしまった場所での作業となりました。歩きづらくなった登山道の脇では、すでに人が歩き、裸地化が進み始めていたからです。放置すればさらに状態が悪くなる、との花谷さんの判断もあり、昨日の登山道をもう一度皆で登りました。

最初に道具の説明を受けました。参加者はとてもシンプルな道具だけで作業できること、同時に、技術者と呼ばれる、山の作業にも詳しいチェーンソーを扱える人たちとの協働も必要であることを知りました。

そして、まずは皆で出来上がりのイメージを共有していきます。
全体の長さと深さを測っていきます。

全体の長さと高さを測定

1つのステップの高さは歩きやすい15~20cmほどで設定するので、全体の長さと高さが分かれば、ステップ数の設置する位置はおのずと決まってきます。 小枝を手に、どこの位置にステップを設置していくかを皆で検討していきます。この時、水の流れを想像することが大切なこと、全ての段が水平に組まれた階段は歩幅を選べず、歩きづらくなることなども教えてもらいました。なので、小枝はジグザグにおいていきます。

小枝を使いながら完成したイメージを共有

ステップの位置が決まったら、実際の作業に移っていきます。
北杜山守隊では、丸太や枝、落葉、岩、土砂などその場にある自然のものを使用して修復します。まずはみんなで落ち葉や小枝、流れ出た土砂などを集めに行きました。

作業はおよそ次の通りになります。

  1. ステップとなる丸太の切出し(技術者の皆さん)
  2. 丸太の設置
  3. 小枝・落葉の収集運搬・設置
  4. 土砂の収集運搬・設置
  5. 仕上げ
1. ステップとなる丸太の切出し

使用する丸太は、倒木か完全に立ち枯れしたものを使います。場所によっては、事前に倒木の使用許可を得る必要があります。

2. 丸太の設置

丸太をはめ込む穴を掘って、大きな木槌でしっかり固定していきます。

3. 小枝・落葉の収集運搬・設置

丸太が設置されたらステップになるところに大小の小枝を敷き詰め隙間を埋めていきます。

4. 収集運搬・設置

小枝の次に枯葉、最後に土砂を入れて、上から踏み固めます。最初はふわふわしていますが、雨が降ったり人が歩くことで踏みしめられていきます。

5. 仕上げ

階段ができたら、両端から崩れてこないように、細い唐木を配置して両脇の土砂の流れを堰き止めます。

あとは、ステップごとに1〜5の作業を繰り返していきます。
ステップは、上からみたときにジグザクに置いていくのが大きなポイントでした。
このように置くことによって、水の流れを蛇行させ勢いを弱め、土砂流出を抑える効果もあります。

施工前
施工後

20人近い人数で協力すれば、わずか1日の作業で、登山道がこれほどにも修復されることを実感することができました。

きちんとステップを作ったことによって、登山道が削れていくスピードは緩慢になます。また、道の脇の部分に関しても、土砂が堆積すれば植生が復活していき、侵食を食い止めることにも繋がるだろうとのことです。

参加した感想と今後の展望

普段トレイルを歩いていて、土砂がなぜ削れ、どのように運ばれているのかということをそれほど意識していませんでしたが、実際に観察しながら解説を聞くとその状況がよく理解できました。

特に参考になったことは、観察や完成したイメージの共有に多くの時間を割いているということです。すぐに作業に移るのではなく、現場を見て何が原因でこうなったのか、どのようにすれば自然が復元できるのかということを考える時間が保全への理解をより深めてくれていると感じました。

参加者のみなさんと声を掛け合い協力しながら作業し、傷んだ登山道が少しずつ修復されていく様子を見るのは何より気持ちがいいものでした。そして、土や木に触れ、その匂いを感じることで、北杜という土地や登山道に愛着がわきました。 トレイルを「歩く」のはもちろん楽しいですが、トレイルを「守る」というのも、それに負けないくらい面白く楽しいものでした。みちのく潮風トレイル上でも、保全ワークショップを企画しているところです。次世代へ受け継ぐ道として、皆と楽しく道を守っていければと思っています。皆さんにも一緒に楽しく整備活動に参加してもらえるよう、仕組みづくりの取り組んでいきたいと思います。ぜひご参加くださいね。

著者 : みちのくトレイルクラブ

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