「みちのく潮風トレイル」の「みちのく」とは、「みちのおく」が訛ったものとされます。古事記には「道奥」と記載があり、「みちのおく」と訓じました。この「道」は、7世紀後半に律令政府によって制定された「5畿7道」と呼ばれる行政区分に由来します。畿内から山間を東に向い、下野国(現在の栃木県)を通る「東山道」があります。その「道」の「奥」、都から遠い奥が「道奥国」であり、その後「陸奥国」と表記されるようになりました。
「道の奥」に続く1,000kmを超える道を3つのエリアに分けて紹介します。
南部:仙台平野エリア
「みちのく潮風トレイル」の最南端は、福島県相馬市松川浦です。ここから歩き始めると、阿武隈山地北端の低山を経由し、宮城県石巻市西部までは東北地方最大の仙台平野を北上します。仙台平野は最終氷河期が終わるおよそ1万年前以降、いくつもの河川から運ばれた土砂の堆積などによって、徐々に海が後退してできた平野で、他のエリアに比べ空が広いです。広大な砂浜が広がる仙台湾は、緩やかに弧を描く海岸線が美しいです。なお、道奥(陸奥)国の政治的中心施設、「国府」とされる郡山官衙遺跡(仙台市)、多賀城跡(多賀城市)はこのエリアにあります。
中部:リアス海岸エリア
宮城県石巻市街を抜けると、北上山地の最南端、牡鹿半島に入ります。ここから岩手県宮古市までのエリアは、リアス海岸を堪能できます。この地におけるリアス海岸は、およそ1万年前に、山間の谷間の奥まで海が入り込んでできた地形で、海に突出したような半島と深い湾が繰り返すギザギザの海岸線が特徴です。ルートも半島と湾に沿うようにギザギザしており、潮風を感じるには絶好のロケーションです。各半島を遠方より望むと、ほぼ同じ標高の平らな面を見ることができますが、実は、北部と同じ海岸段丘です。
北部:海岸段丘エリア
岩手県宮古市からトレイル最北端の青森県八戸市蕪島までは、海に断崖が直面する場所が多く、直線的な海岸線に変わります。数十万年前の波打ち際でできた平坦な面が徐々に地上に現れてできた海岸段丘が分布しています。八戸市蕪島周辺は十数mの段丘ですが、岩手県田野畑村周辺の段丘は標高差200m近くに及びます。そうした段丘の上部は平坦で歩きやすいですが、そこに刻まれた、大小様々の谷が何度も現れるため、高低差を楽しめるハードな区間ともいえます。ごつごつとした岩場を乗り越えながら進む、波打ち際の道は冒険心をそそられます。
こうした大地と海が生み出す絶景だけでなく、それらに育まれた動植物、そして人々の暮らしや文化を歩く速度で楽しめます。世界有数の漁場である三陸沖の美味しい魚介類も四季を通じて満喫できるのも大きな魅力です。また、1,000kmと長い「道」であるがゆえに、地域ごとのちょっとした違いにも気づくことができるようになります。東北沿岸の様々な豊かさを「みちのく潮風トレイル」を通して深く体感してみましょう。